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誰もが実感できる
快感を開発する。

カーナビゲーションの理想を求めて

2023.06.09

大ヒットとなったカーナビゲーション、055シリーズ。

運転は、楽しみであるとともに、ある種のストレスでもある。特に知らない場所を走る時、それはドライバーにとっては大きな負荷になる。

 

1990年代半ば、まだカーナビゲーションはその幕を上げたばかりの時期。米軍の制約でGPS自体の精度が今ほど高くなく、ナビゲーション機能の中核を担うのがジャイロケーターや車速センサーだった時代。カーナビメーカーは各社横並び、一進一退を繰り返しながら徐々に技術力を高めていた。そんな中、1994年に発売されたのが、アルパインのカーナビゲーションNVE-N055だ。このN055を皮切りに次々と登場したアルパインの055シリーズは、カーナビの名機と称えられ、ユーザーから圧倒的な支持を得た。このシリーズによって、アルパインは群雄割拠の中から頭ひとつ抜け出したのである。

 

各社がしのぎを削る中、このアルパイン055シリーズがなぜ高い評価を得ることができたのか。そこにもブランドに結びつくストーリーがあった。

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アルパイン初のカーナビは、未来の礎になった。

1992年、アルパイン初のカーナビ「GPシャトル1804」が発表された。1804は当時最先端であったGPS航法を採用したナビゲーションシステムだ。地図画面が回転し進行方向が常に画面上部を指すヘディングアップ機能や、交差点に近づくと拡大案内図を表示する機能など、他社に対して抜きん出た性能を持っていた。

 

当時の最新のカーナビテクノロジーが投入された1804だったが、アルバインの開発陣の中にはこの最新鋭機1804に物足りなさを感じている者もいた。確かに技術は凄い。だが、その技術は本当にユーザーの気持ちの奥底に入り込んでいけるのだろうか。普通の人が簡単かつ便利に使えるカーナビ。それこそが、我々が目指す製品ではないのか。それこそが、ユーザーに受け入れられる製品になるのではないのか…。

 

1804に対する懸念は、やがて現実のものになった。マイナーチェンジを行い世の中の注目を集める進化を遂げながらも、1804は市場をリードすることができなかった。開発陣は、自分たちの思いをカタチにするべく次世代の新型機の開発に没頭する。理想を具現化するためには自社技術だけでなく、外部の技術を導入することも厭わなかった。

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カーナビゲーションの名機、NVE-N055の誕生。

そして1994年10月、最先端のナビ技術とユーザーへの思いを詰め込んだカーナビゲーションNVE-N055が登場した。

 

世の中がまず驚いたのは、その圧倒的なスピードと精度である。自動ルート探索という、まだ世の中に出たばかりの機能にもかかわらず、そのスピードはルート全体でも数十秒、リルート探索に至っては数秒という速さである。

しかも、その正確さは従来のナビゲーションのイメージを一新するものだった。道が一本ずれるビルの中を走っているなど、とかくその精度に疑問符の付くことが多かったマップマッチングが、ほぼ完璧とも言えるレベルに来ていたのだ。それはユーザーにとっても業界関係者にとっても、想像を遙かに超えるポテンシャルだった。

 

N055の開発あたっては、最新のCPUを投入することはもちろん、マップマッチング技術の徹底した追求や計算アルゴリズムの抜本的な見直しなど、時間を短縮し精度を向上するために従来の既成概念を大きく変える変革が行われた。そうした中には、予備探索という画期的なアイデアもあった。これはたとえば東京〜大阪間のルートであれば、規定のルートとも言える東名高速の部分を事前に予備ルートとしてデータ化して保持しておき、実際のルート探索が行われたときに規定ルートは計算せず、高速道路のインターチェンジに乗る前と乗った後だけを計算して、計算時間を短縮するのである。こうしたデータを大量に格納しておくことで、さまざまなルートにおいて、計算時間を大幅に短縮したのだ。

 

そこには、「どんな画期的な機能であっても、ユーザーにストレスを与えるものが市場に受け入れられることはない」という強い意志があった。ストレスを与えない速さと正確さ、それがアルパインのカーナビゲーションの基準になった。

 

さらに、精度や速度と同等以上にこだわったのがユーザーインターフェイスだ。たとえばリモコンは、それまでの手のひらに収まるコンパクトなカード型リモコンから、ジョイスティックを備えた手でしっかり握れるタイプのものになっていた。カタチだけではない、アルパインではそのデザイン配色にまでこだわり、デザイナーは何度も修正し作り直し、ユーザーのための製品へと仕上げていった。

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理想は、使う人の気持ちの中にある。

なぜアルパインはそこまでこだわったのか。その答えは発売後に明らかになる。N055の販売促進では、従来以上に店頭でのお客様アプローチを重視した。カタログで機能を訴えるだけでなく、お客様にその速さや操作感を実感していただくことに注力したのだ。この作戦は大成功した。お客様はルート探索の速さに驚くだけでなく、その設定しやすさにも驚いたのである。

 

特に現場を驚かせたのは女性の反応だった。当時、助手席に座ることが多かった女性は、実はナビ操作の重要なパートナーだった。実際に操作を体験した多くの女性たちが、N055の操作のしやすさに感嘆の声を上げるとともに、スティック型リモコンの使いやすさや優れたデザインに共感した。アルパインの思いは、多くのお客様に届いた。

 

そして当時、純正品ではオーディオを含むフルセットで50万円以上とも言われたカーナビシステムを、カーナビ単体とは言え20万円を切る価格で実現したのも大きかった。ただ低価格だけを狙った普及品ではなく、他の高級機と比べても遜色なく、むしろそれ以上の性能を実現しながら求めやすい価格設定とした。多くの人が、その価格以上に、その完成度に惹かれて購入に踏み切ったのは間違いない。N055の登場によってカーナビは一気に市民権を得ることになったのである。その後アルパインの055シリーズは、タウンページ(電話帳)検索、高精度市街地地図、VICS(道路交通情報通信システム)対応、Door to Doorコンセプト…というように、ユーザーニーズに寄り添うモデルチェンジを重ね、その人気を不動のものとしていく。

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成長するブランド、アルパイン。

いつしかカーナビならアルパインという評価がユーザーの中に定着していた。中にはカーナビ御三家と言う言葉でアルパインをトップブランドのひとつに称するマスコミもあった。

 

そのベースとなったのが、055シリーズの圧倒的な速さや正確性、そしてマイナーチェンジごとに世の中の常識を変えるほどの機能を投入してきた革新性であることは間違いない。しかし、その根底にはアルパインの揺るぎない意思があったと言える。それは、常にユーザー視点を持つ、という意識である。

 

速さや正確性はもちろん、次々に投入された革新的な機能も、ただ技術的に優秀なだけではない。それらはすべてユーザーが望んでいることの具現化なのだ。どんなに難しいこともユーザーが望むのであれば実現する。逆にユーザーが求めないものは切り捨てていく。そのハッキリとした意思が055シリーズの人気の理由でもあった。

 

055シリーズは、ユーザーのために低価格を追求はしたが、高級感を捨て去ることはなかった。常にブランドの品格を重視していたのである。だがそれもまた、製品に対する満足感を持ってもらいたいというユーザー視点からなのである。

 

ユーザーに満足してもらえるブランドとして成長を続ける。その意思のもと、055シリーズの後もアルパインブランドからは数々の革新的な製品が生まれていくことになる。

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